大高博幸さんの 肌・心 塾
2018.4.10

『 きみへの距離、1 万キロ 』『 さよなら、僕のマンハッタン 』『 女は二度決断する 』『 ワンダーストラック 』 試写室便り 【 大高博幸さんの肌・心塾 Vol.442 】

ビューティ エキスパート大高博幸さんの試写室便り。今回ご紹介する映画は『 きみへの距離、1 万キロ 』『 さよなら、僕のマンハッタン 』『 女は二度決断する 』『 ワンダーストラック 』

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© Productions Item 7 – II Inc. 2017

クモ型ロボットが見つけた、
砂漠にただずむ〝 運命の人 〟。
地球の裏側に、きみを見守る僕がいる。
――それは、遠隔操作な片想い。

きみへの距離、1 万キロ
カナダ/ 91 分
4.7 より公開中/配給:彩プロ

【 STORY 】 北アフリカの砂漠地帯にある石油パイプライン。そこで石油泥棒を監視する 6 本足の小さなクモ型ロボットを、遥か 1 万キロ離れた アメリカ・デトロイトから 遠隔操作しているオペレーターのゴードンは 最近、恋人と別れたばかり。上司から勧められた出会い系アプリを試してみるも、ピンとくる出会いはない。そんなある日、ゴードンは 監視ロボットを通して 若く美しい女性 アユーシャと出会う。いつも暗い表情を浮かべている 彼女のことが気になったゴードンは、〝 Juliet 3000 〟と名付けた監視ロボットを駆使して アユーシャの身辺を探り始める。彼女には カリムという恋人がいるが、親からは別の相手との結婚を強要されていた。引き裂かれたくないアユーシャとカリムは、危険を冒してでも国を出る決意をしていたのだ。そんな状況を知ったゴードンは、彼女を救おうと、大胆な行動に出る…。( プレス資料より。一部省略 )

どちらかと言えば地味な小品ですが、これは意外なほど良かったです。予想していたよりも遥かに面白く、静かな展開でありながらハラハラドキドキの連続。ありきたりのラブロマンス物とは全く異なる内容であり、最後は涙で画面が曇って「 ハラハラした甲斐があった 」と思いました。

いろいろ書きたいところですが、少し書くだけで ネタバレに直接つながってしまうため、最小限に留めておくとして、
① ゴードンの行為は 一見 ストーカーのようでいて、実は 正反対。自分自身の恋の破局に深く傷ついた彼の、何とかしてアユーシャの恋を成就させてあげたいという一心に起因している…。そこが本作を感動作にしている第 1 の要素。なんとゴードンは、ふたりの逃避行を叶えるために、不足している彼らの高額な船賃を、自腹でアユーシャの口座に振り込みさえするのです。その心情が十分に表現されていて 嘘っぽさが少しも感じられないのは、監督・脚本の キム・グエンのお手柄。モチロン、ゴードン役の ジョー・コールの ピュアな好演によるところも大です。
② クモ型ロボットは 蟹のようにも見えて、ギコギコ歩く姿や トツゼン壊れてしまうところなど、生き物のようで いじらしい。
③ アユーシャ役の リナ・エル = アラビは、フルロング級のまつ毛の持ち主。1 年後 ( ! ) のラストシーンでの アカ抜けた美しさが見モノです。
その他、砂漠で迷子になった盲目のおじいさんと ゴードンが交信する 付加的なシークエンスも印象的。また、伏線の張り方が自然で、誰にも分かりやすく物語られている…。これは劇映画として、とても大切なコトだと思います。

 

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© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

成功者の親にも反抗期の僕は、
いまだに人生を迷走中。
見知らぬ隣人と父の愛人。
この出会いは 毒になるか薬になるか。

さよなら、僕のマンハッタン
アメリカ/ 88 分
4.14 公開/配給:ロングライド

【 STORY 】 大学卒業を機に、親元を離れることになったトーマス。想いを寄せる古書店員のミミと一夜を過ごしたが、バンドマンの恋人がいる彼女とは友達止まり。躁うつ病の母の精神安定剤として開催される夕食会に呼ばれても、NY の黄金時代に青春を謳歌し、今ではハイソサエティに属する アッパー・ウエストサイドの住人たちの会話に入ることさえできず、就職の心配をされるばかり。そんなとき 彼はアパートの隣人 W・F・ジェラルドと出会い、彼から恋や人生のアドバイスを受けるようになる。ある日、トーマスは ミミと訪れたナイトクラブで、父と愛人の密会を目撃。二人を別れさせようと躍起になるうち、彼女の底知れない魅力に溺れていく。凡庸な人生と自覚していたトーマスだが、新たな友人と父の愛人との出会いから、予想もしていなかった 自身と家族の物語に直面する……。( プレス資料より。一部省略 )

’09 年に『 ( 500 日 ) のサマー 』で長編映画デビューを果たした マーク・ウェブ監督の最新作。主演は ファッションモデル出身の カラム・ターナー。内容は 端的に言うと、少年と青年の狭間にいるトーマスの〝 大人への通過儀礼 〟物語。ダスティン・ホフマンの代表作のひとつ『 卒業 』を想い出させる展開に、もうひとつ、細くても切れない強い糸が綾織りにされている作品です。

C・ターナーの演技は 淡々としているところが現代的で、そのために ちょっと助けてあげたくなるような感覚を抱きながら、彼の行動と心の動きを見守るコトとなりました。これは、サイモン & ガーファンクルの名曲に乗せて贈る、NY へのラブレター。

躁うつ病を患っているトーマスの母親を演ずるのは、『 セックス・アンド・ザ・シティ 』のミランダ役で有名な シンシア・ニクソン。適役ではありますが、適役すぎてツラすぎる気も…。彼女は『 ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります 』( Vol.323 ) のように、タフな役を演じている時のほうが、むしろ いゝ気が 僕はします。

 

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(c )2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production,corazon international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

突然、最愛の家族を奪われた女。
絶望の中、
彼女の想いは どこへ向かうのか――。

ダイアン・クルーガー 主演、
ファティ・アキン監督 最新作。

女は二度決断する
ドイツ/106 分/ PG-12
4.14 公開/配給:ビターズ・エンド

【 STORY 】 ドイツ、ハンブルク。カティヤは トルコ系移民であるヌーリと結婚。ヌーリは かつて麻薬の密売をしていたが 足を洗い、カティヤとともに真面目に働き、息子 ロッコも生まれ、幸せな家庭を築いていた。ある日、ヌーリの事務所の前で 白昼に爆弾が爆発し、ヌーリとロッコが犠牲になる。外国人同士の抗争を疑い 警察は捜査を進めるが、在住外国人を狙った人種差別主義のドイツ人によるテロであることが判明。容疑者は逮捕され 裁判が始まるが、人種や前科をあげつらい、なかなか思うような結果の出ない裁判に カティヤの傷は深まってゆく。愛する人、愛する子供と生きる ささやかな幸せ。それが 一瞬にして 壊されてしまった。絶望の中、生きる気力を失いそうになりながら、カティヤがくだす決断とは――。( プレス資料より。一部省略 )

日本公開題名とストーリー紹介文に硬さと暗さを感じ、「 記事に しにくそうだから パスしよう… 」と思いながらも観に行きました。観た理由は ふたつ。『 消えた声が、その名を呼ぶ 』( 通信 319 ) の F・アキン監督作品 ( 脚本は ハーク・ボームとの共同 ) であるコトと、主演が『 戦場のアリア 』や『 マリー・アントワネットに別れをつげて 』( 通信 127 ) の D・クルーガーだというコト。
結果は観て正解、これは ゴールデングローブ賞Ⓡの外国語映画賞にノミネートされ、カンヌ国際映画祭では主演女優賞を獲得した作品です。僕は 徐々に惹きつけられ、カティヤが 弁護士のダニーロと組んで戦いを始める頃には スクリーンに のめり込み、ドキドキしながら ふたりの勝利を願っていました。

シナリオは、ドイツ警察 戦後最大の失態と言われている「 ネオナチ事件 」に着想を得たオリジナル。初動捜査の見込み違いから 10 年以上も逮捕が遅れ、その間に 犯行グループは 殺人・テロ・強盗を繰り返した…。本作は 2004 年、トルコ人の商店が多いケルンの街で、800 本の太い釘入りの手製爆弾を炸裂させたテロ事件をベースにしています。

本作の第一の観どころは、犯人を許せないカティヤの心理状態にあります。中盤、両手首を切って死のうとしたものの、意識が朦朧と遠のく中、犯人逮捕を告げるダニーロからの留守電を耳にして 我れに返るという D・クルーガーの演技にも、強い説得力がありました。
助演者としては、カティヤの弁護士 ダニーロ役の デニス・モシットの正義感の強さが印象的。彼いわく「 吐き気がするほどの陽動作戦 」に出る 被告側の弁護士役 ヨハネス・クリシュの演技も、憎々しくて巧みです。

F・アキンの演出は、不必要では? と思えるような描写に 尺を取る傾向が 今回も見受けられました。しかし、力強いパワーと緊張感に加え、ある種の厳粛さ or 祈りにも似た何かが備わっていて、観る者の心を激しく揺り動かします。

本作は PG-12 指定 ( 12 歳未満の観客には適していない部分があるため、親 or 保護者の同伴が必要という 映倫の指定区分 ) となっていますが、目を覆いたくなるような描写は、ひとつもなかったと思います。もしかしたら、両手首を切っての自殺という場面が、問題なのかもしれません。

 

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©2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC/PHOTO : Mary Cybulski

いつだって、
人生は 驚きと幸せのワンダーランド。

’77年 ミネソタの少年 ベンと、
’27年 ニュージャージーの少女 ローズ。
ふたりの物語が ひとつになった時、
ニューヨークに奇跡が起こる。

ワンダーストラック
アメリカ/ 117 分
4.6 より公開中/配給:KADOKAWA

【 STORY 】 1977 年、ミネソタ。母親を交通事故で失った少年 ベン。父親とは一度も会ったことがなく、なぜか母は 父のことを語ろうとしなかった。ある嵐の夜、母の遺品の中から父の手掛かりを見つけたベンは、落雷にあって 耳が聞こえなくなりながらも、父を探すため ひとり ニューヨークへ向かう。
1927 年、ニュージャージー。生まれた時から 耳が聞こえない少女 ローズは、母親のいない家庭で 厳格な父親に育てられる。憧れの女優 リリアンの記事を集めることで 寂しさを癒していたローズは、リリアンに会うため ひとり ニューヨークへと旅立つ。
過去からの 時の流れが 今へとつながり、ベンとローズは 謎の絆に引き寄せられていく。そして、大停電の夜、何かが 起ころうとしていた――。( プレス資料より )

『 エデンより彼方に 』『 キャロル 』の トッド・ヘインズ監督が、『 ヒューゴの不思議な発明 』の原作者 ブライアン・セルズニックの同名ベストセラー小説を映画化した最新作。主役の少年役は『 ピートと秘密の友達 』の オークス・フェグリー、少女役は 長篇映画初出演の ミリセント・シモンズ。
ふたりの ふたつの時代が ひとつになる「 奇跡の物語 」ですが、’77 年と ’27 年が混ざり合うワケではなく、それが一本の線となって 最後に結びつくという内容。

「 T・ヘインズ監督、新境地にして最高傑作!! 」という惹句を目にしましたが、僕としては それには 不賛成。監督は 少年・少女を描くには 恐らく不向き、B・セルズニックは 映画の脚本を書くには不適任という印象を 僕は受けたのです。
開巻 しばらくして「 導入部が長いなぁ 」と思いながら観ていましたが、それが導入部ではなく、ラスト近くまで続くのだと気づいたのが、全篇の半分ほどを過ぎた頃。ベンが NY で友だちになるジェイミーとの やり取りは、「 50 %が台本どうりで、50 %はアドリブかも 」という感じで 無意味に冗長。恐縮ながら、これは 最高傑作どころか 成功作とも言えないのでは? というのが 正直な感想です。

しかし、観る価値があったのは、
① ベンの母親役を演ずる ミシェル・ウィリアムズが、その最初の登場シーンで 彼女としては珍しく、弾けるような笑顔を観せていたコト、
② 1927 年、トーキー ( 発声映画 ) の波が押し寄せる直前の映画館の様子…、特に 豪華なオルガンが 無声映画に伴奏を付けているシーンが 素晴らしかったコト、
③ ローズが NY の劇場の楽屋口から、女優リリアンのリハーサル現場へ忍び込むシークエンスに、面白い描写があったコト、
④ ローズの兄となるウォルター役のダブルキャスト ( コリー・マイケル・スミス、トム・ヌーナン ) に、ニュアンスがあって良かったコトなどです。

P.S. 久し振りに お目もじした ジュリアン・ムーア ( ’27 年のシーンでのリリアンと、’77 年のシーンでのローズの二役 ) は、目元の雰囲気が 非常に変わっているコトにショックを受けました。上まぶたのリフティング手術でも受けたのでしょうか? 痛々しく見える瞬間が 何度かあって、もしも手術のせいであるなら 一日も早く、それが 目立たなくなるようにと願います。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾

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