大高博幸さんの 肌・心 塾
2018.4.17

『 君の名前で僕を呼んで 』『 ロンドン、人生 はじめます 』『 さすらいの レコード・コレクター 』 試写室便り 【 大高博幸さんの 肌・心塾 Vol.443 】

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©Frenesy, La Cinefacture

何ひとつ忘れない。

17 歳と 24 歳の青年の、初めての、
そして 生涯 忘れられない恋。

君の名前で僕を呼んで
イタリア、フランス、ブラジル、アメリカ/ 132 分/ PG 12
4.27 公開/配給:ファントム・フィルム

【 STORY 】
1983 年、夏。北イタリアのどこか。エリオ、17 歳。
17 歳の エリオ ( ティモシー・シャラメ ) は、毎年、夏になると 両親と一緒に 北イタリアを訪れて、母が相続した 17 世紀に建てられた ヴィラで過ごす。エリオの父 ( マイケル・スタールバーグ ) は、アメリカで教鞭をとる大学教授で ギリシア = ローマの美術史学を専門にしている。母のアネラ ( アミラ・カサール ) は 翻訳家だ。家の中には いつも 英語やイタリア語、フランス語が飛び交っている。両親は エリオに、自然に恵まれた環境の中で 高い教養に触れさせたいと思っていた。クラシック音楽を編曲したり、ピアノやギターを演奏したり、読書をしたり、夜遊びをしたり。ときには 近くに住むフランス人のマルシア ( エステール・ガレル ) と ふざけ合ったり。それがエリオの夏の過ごし方だ。

ある日、24 歳の大学院生、オリヴァーが やってくる。
オリヴァー ( アーミー・ハマ― ) は 博士課程に在学中の 24 歳の大学院生。アメリカから やってきた。エリオの父、パールマン教授は 毎年、ヴィラで一緒に夏を過ごし、自分の研究を手伝ってくれるインターンを迎えるのだが、今年のインターンがオリヴァーなのだ。オリヴァーが使うのはエリオの部屋。エリオは 共用のバスルームで繋がっている 隣の部屋を使う。( 中略 ) オリヴァーは これまでのインターンよりも知的で、振る舞いも自信にあふれているように エリオには見えた。マルシアや キアラ ( ヴィクトワール・デュボワ ) らがやってきて バレーボールをして遊んでいるとき、オリヴァーが 冗談半分のように エリオの裸の肩に触れた。

不思議な磁石があるように、引きつけあったり反発したりする ふたり。
エリオは オリヴァーの口癖の〝 後で 〟が とても横柄に思えて気に入らない。ある日、エリオがギターで弾いていた曲をオリヴァーが気に入り、アンコールされたときには、まったく違う編曲のピアノで弾いて いじわるをした。キアラとダンスをするオリヴァーを見た夜は、マルシアを誘い、もう少しだったと オリヴァーに自慢した。エリオとオリヴァーの間には、まるで不思議な磁石があるように 引きつけあったり反発したりした。

告白。
ある晩、母アネラが 16 世紀のフランス小説をエリオに読んでくれた。ある王女に熱烈な恋をした騎士の話だ。王女への愛を口にすることができない騎士は、ある日ついに王女に問いかける。告白すべきか、命を絶つか。オリヴァーに その話をしたエリオは、その日、自転車で でかけた街で オリヴァーへの想いを告白する。オリヴァーも同じ想いを抱いていた。

まばゆい夏の光の中で、激しく恋に落ちる ふたり。
しかし 夏の終わりとともに オリヴァーが去る日が 近づいてくる……。( プレス資料より )

第 90 回 アカデミー賞Ⓡ脚色賞を受賞した、眩ゆいばかりの作品です ( ノミネートは、作品賞・脚色賞・主演男優賞・歌曲賞の 4 部門 ) 。
原作は、’07 年 ラムダ文学賞 男性フィクション部門賞を得た アドレ・アシマンの同名小説 ( オークラ出版より 4 月中旬刊行予定 ) 。脚本は『 眺めのいい部屋 』『 モーリス 』『 日の名残り 』等を監督した、脚本家でもある ジェームズ・アイヴォリー。監督は『 ミラノ、愛に生きる 』『 胸騒ぎのシチリア 』等の俊英 ルカ・グァダニーノ。主演は、エリオ役に『 インターステラー 』『 クーパー家の晩餐会 』等の ティモシー・シャラメ ( 本作が初主演 ) 、オリヴァー役に『 ソーシャル・ネットワーク 』『 コードネーム U.N.C.L.E. 』『 ジャコメッティ 最後の肖像 』等の アーミー・ハマー。

これは、17 歳の少年と 24 歳の青年との〝 何ひとつ忘れられない恋 〟の物語。同性愛を描いているというコトで、公開当時、センセーショナルな話題を呼んだ『 モーリス 』( ’89 ) や『 ブロークバック・マウンテン 』( ’06 ) と同系列とも言える作品です。しかし 前 2 作が、法的に罰せられたり 不法なリンチを受けたりした時代の物語 ( 記憶に新しい『 イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密 』( 通信 278 ) も、合法的な酷い扱いによって廃人にされた 同性愛者の物語 ) であったのに対し、本作の主役ふたりには 周囲の目をはゞかる瞬間はあるにしても 罪悪感は不在、さらに エリオの両親が 彼らの関係を肯定的に捉えるという点で 大きく異なっています。そのため 本作は〝 男性同士のラブストーリー 〟という枠を超え、おそらく ほとんど全ての観客に、自身の初恋の時代から 初体験に至った頃の感覚や感情を鮮明に想い出させ、強い共感を得るに違いない点で 非常にユニークです。

本作を 官能的かつ感動的にしている要素は 多々あるのですが、その第一に挙げるべきは、やはり 主演者ふたりの誠心誠意な演技でしょう。
エリオ役の T・シャラメは、実年齢 17 歳の時に本作への出演オファーを受けていますが、実際に撮影されたのは その 5 年後、彼が 22 歳の時。しかし 全篇を通じて、彼は 体つきも顔つきも、動きも表情も 16 歳ぐらいにしか見えません。それだけでも驚かされますが、彼は エリオの感情の高まりや不安、心の震え等々を過不足なく体現し、演技とは思えないレベルの心理描写に成功しています。
一方、オリヴァー役の A・ハマーは、24 歳というよりも 撮影時の実年齢 30 歳 そのものに見えます。運動神経は 本来 いゝはずにも拘らず、アップテンポのディスコナンバーを踊る場面 ( エリオが 彼に恋心を抱いているコトを、はっきりと自覚する場面でもある ) に 若さ or キレの良さがない上、ウエスト周りに肉が付きすぎているコトが難点…。しかし 彼の性格描写は、一見 横柄なようでいて 実は極めて繊細。特に エリオの感情の変化を 神経質とも言えるほど気にかける幾つかの場面で、複雑かつ微妙な心理を巧みに表現して 称賛に価します。

このふたりの、互いに相手の気持ちを確かめようとするプロセスが、もたつきながら進む部分を含めて デリケートに描かれていくのですが、初めて性的関係を持つ場面での演出も見事でした。彼らの体の動きを具体的に映し出したりするコトは避けながら、互いに惹き合う感情を余すところなく映像化しているのです。これは「 何をどこまで見せて、何を見せないか 」を熟慮したはずの L・グァダニーノ監督の感性と知性の成せる術。ベッドの上のふたりから、壁のカレンダー、そして窓の外へとカメラがパンするタイミングを含めて、監督の節度ある演出は 正しかったと思います。

揃って好演している助演陣で 最も印象深いのは、エリオの父を演ずる M・スタールバーグ。妻のアネラと共に、エリオとオリヴァーの関係に早くから気づいているのですが、オリヴァーが 6 週間の滞在期間を終えて帰国した後、喪失感に打ちのめされている息子に 彼が語りかける場面には、激しく心を打たれました。彼は エリオのオリヴァーとの経験が、かけがえのない貴く美しいものであるコトを 心を尽くして説いた上、自身の若かりし日の後悔を エリオに打ち明けさえするのです。この場面での父と息子のアップの繰り返しには、胸が張り裂けるような感動で 画面が滲んでしまう方が ほとんどだと想像しますが、そこは 懸命に涙をこらえて、ふたりの顔を しっかりと見つめていてほしいです。それにしても、彼のような父親を持ったエリオは、世界一、幸せ者です。

最後のシークエンスは 雪景色、真冬のヴィラ ( エリオは 家族と共に、クリスマスを こゝで過ごすようです ) 。服装も かなり変わり、少し大人びて 一層 綺麗になった感じのするエリオがいて、そこに 電話が掛かってきます。エリオが出ると オリヴァーの声。両親も嬉しげに電話に出て、そのまゝラストシーンへと進むのですが、その最後のショットは、3 分 30 秒に及ぶ エリオの 無言のまゝのクロースアップ。その顔に、オリヴァーに対する彼の感情の全てが 交錯するように表われる…。その表情の 美しさ、いとおしさ、いじらしさは、スクリーンで観て、眼に焼きつけるしかありません。第 90 回 アカデミー賞Ⓡ主演男優賞は ゲイリー・オールドマンに もたらされましたが、僕は T・シャラメが獲得しても、誰もが納得しただろうと思います。

装置・美術・音楽 etc、効果音に至るまで 全てが充実していますが、特筆に価するのは サヨムプー・ムックディプローム ( ’70 年、タイ出身 ) による撮影です。34 日間の撮影期間中〝 100 年に 1 度の雨 〟に直面し、28 日の間、雨に見舞われたそうですが、雨期のあるタイで長年培った〝 悪天候への対処方法 〟を総動員、ごく僅かな太陽光を最大限に生かして 北イタリアらしい夏の情趣と空気感をカメラに収め、監督や製作陣を感嘆させたとのコト。そんな技術を身につけたカメラマンがいたとは、正に 驚愕・感服・脱帽です。

本作は ハイパーインテレクチュアル ( 超知的 ) な作品などでは 決してなく、むしろ 心優しい究極のラブストーリー。「 ボックス入りのチョコレートのような存在になってほしい 」と監督は語ったそうですが、本当に そのとうりの映画になっています。少しでも興味を抱いた皆さんは、ぜひともロードショー館に足を運んで、観てください。

 

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© 2016 RELIANCE ENTERTAINMENT PRODUCTIONS 6 LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

ホームレスが一夜にして資産家に!
衝撃の実話を基に描く感動作。

暮らしも、お金も、恋も、自分らしく。

ロンドン、人生 はじめます
イギリス/ 102 分
4.21 公開/配給:シンカ、STAR CHANNEL MOVIES

【 STORY 】 夫亡きあと 発覚した浮気や借金のこと、減っていく蓄えのこと、うわべばかりのご近所づきあいなど、様々な問題から逃げているエミリー。ある日、余計なモノを持たず 手作りの暮らしで幸福なドナルドと出会い、エミリーは 頑固だけど温かい 彼の人柄に惹かれていく。だが ある出来事が ドナルドに降りかかり、二人の恋の行方は 予測不可能な展開に――。( 試写招待状より )

1970 年代から 根強いファン層に 支持され続けている ダイアン・キートン ( 1946 年生まれ ) の、久々の主演作。ロンドンの高級住宅地 ハムステッドの国立公園内に、手作りの家を建てゝ暮らしているホームレスと知り合って、ダイアン演ずるエミリーが 人生をやり直す決心をするという、コメディタッチのヒューマンドラマです。

ズバリ言うと〝 お定まりのダイアン映画 〟ですが、彼女は相変わらずガンバっているし、『 ハリー・ポッター 』シリーズの ブレンダン・グリーソン ( ホームレスのドナルド役 ) とのコンビも、ミスマッチのようでいて面白い。
面白いと言えば、「 うわべばかりのご近所づきあい 」の代表選手・フィオナ役を演ずる レスリー・マンヴィル ( 上のスティル、左から二番め ) が、加茂さくら ( たしか宝塚の娘役出身の、かつての女優 ) の そっくりさん風演技を披露していて、僕は パロディを観ているような愉快な気分を、勝手に味わったりも していました。

ひとつ 気になったのは、ダイアンが ほゞ無表情でいる時の顔…。頬の肉が下がって、彼女ならではのキュートさが 消え失せる瞬間があったコトです。そんな顔のスティルが チラシの B 面にワリと大きく扱われていましたが、ファンの皆様は、そのスティルを 捜したりは しないほうが◎でしょう。

監督は、『 新しい人生の はじめかた 』『 ラブ・パンチ 』( 英国アカデミー賞 新人監督賞 受賞作 ) 等の ジョエル・ホプキンス。

 

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(C)Cube Media 2003

まだ誰も聞いたことがない音楽を求めて。すべての アナログ・レコード・マニアに捧げる――。

さすらいの レコード・コレクター
10 セントの宝物
オーストラリア/ 52 分
4.21 公開/配給:スリーピン

【 INTRODUCTION 】 アメリカは メリーランドに暮らす 最強のレコード・コレクター、ジョー・バザード。自宅の地下室に降りると、そこには 壁一面に 78 回転の SP レコードが…。発売当時 たった 10 セントで売られていた ブルース、カントリー、ブルーグラスなどなど 様々なジャンルの貴重なレコードを、彼は大事そうにプレイヤーにかけ、踊ったり 口ずさんだりしている。
自分の本当に好きな音楽を聞くために、あらゆる音楽ファンが抱く願望を体現する この男のミッションは、本物の「 アメリカン・ルーツ・ミュージック 」のレコードを探し、救い出すことだった! ( プレス資料より。一部省略 )

2003 年に制作された 16 mm フィルムによるドキュメンタリー映画。今回は DCP に転換しての〝 発掘公開 〟です。元々が 16 mmというコトもあって「 映像がキレイとは言えない 」と配給者の H 氏が 試写に集まった記者陣に 詫びていましたが、そんなコトは少しも気になりませんでした。

J・バザードのコレクションの莫大さは モチロン驚きモノです。しかし 彼は、収集そのものを目的としているコレクターではなく、そのレコード盤に収められた 音、音楽、さらに それが演奏された時代や場所の空気感までをも 心底 愛してやまない男。スケールは 全く比較になりませんが、僕も SP レコード・コレクターのひとりとして、彼の 熱心さ・執着心の強さには 共感以上のモノを覚えました。少くとも 50 年間、彼は 毎週 1 回 放送している自身のラジオ番組で、それらのレコードをかけて、愛する音楽を 同好の人々と共有してもいるのです。

個人的に眼を見張ったのは、1920 年代初頭 ( 実際は ’18 年頃ではないかと 僕は想像 ) の レコードプレス工場の記録映像。クレイとシェラックを原料とするレコード盤を、プレス係の女工さんたちが 1 枚 1 枚 仕上げていく場面でした。その辺り、もっと観たかったというのが 僕の本音です。

これは、SP レコード ( SP とは スタンダード・プレイの略で、1 分間に 78 回転して音を再生。材質の関係で、手を滑らせて落下させると、陶器のお皿のように 割れてしまう盤が ほとんどです ) に興味を抱く方々へイチオシの、貴重なドキュメンタリー。あなたの 友人・知人に SP レコード好きの方が いらしたら、ぜひ この映画のコトを 教えて差し上げてください。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾

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